日本中のタイ料理屋さんや、その他の店でも食べられるタイ料理。そこで私たち日本人が「ガパオ」と並んで、最も頻繁に目にし、耳にするのが「グリーンカレー」という料理名かもしれません。しかしながら、この呼び方こそが、タイ料理のなにか、そもそもタイ料理を考えるときにボタンを最初から掛け違えさせているのかもしれません。
「タイ料理」の視点から言えば、これは「カレー」ではないです。
ゲーン・キヤオ・ワーンという正体
タイ語での正式名称は「ゲーン・キヤオ・ワーン」。 タイ料理に親しみがある方なら、一度はその響きを耳にしたことがあるはずです。たまにメニューにもカタカナで書いてあったりしますね。その意味を分析してみると、私たちが抱いている「カレー」のイメージがいかに違うかがわかります。
- ゲーン(Gaeng):汁物、スープ。タイ人はこれをカレーとは定義していません。
- キヤオ(Khiao):緑。グリーンは正解です。
- ワーン(Waan):甘い。辛いじゃないです、甘いです。
つまり、直訳すれば「緑で甘いスープ」。 これがタイ人にとってのグリーンカレーです。
日本人が「今日は刺激的なカレーを」と思って注文する一皿は、現地では「甘いスープ」という認識です。 実際にタイの食堂で口にすれば、舌先にまず届くのはココナッツミルクのまろやかさと、けっこう効いた砂糖の甘み。 辛さはその背景にある、いろんな味の一部に過ぎません。 タイ料理のもっともっと辛い料理と比較すると、実はマイルドな部類に属する料理なのです。
本物を見分ける「表面の油」

グリーンカレー(と言いたくないけど)が運ばれてきたとき、まず見るべきは表面です。 透明な油が、表面に広がっているでしょうか。 これこそが、ココナッツミルクをじっくりと加熱し、油分が分離するまで正しく火を通した正しい調理法の証です。緑というか、結構、濃い色になってますね。作るのにそこそこ時間がかかります。

これはちょっと極端な例ですが、全体が白っぽく、色が薄くて、不透明なグリーンカレーをときどき見ることがあると思います。これは火の通りが甘く、油分の分離が不十分な証拠ですね。店によっては、最後にココナッツミルクを入れて軽く火を通しただけで出てくることもあるのではないかと… 見た目は、白っぽい方が緑に近いかもしれませんが、口に含んだ瞬間のコクの深さが決定的に違います。

現地タイでは、レストランで食べるよりも、ぶっかけ食堂で選ぶとか、持ち帰るとかの方が多いかもしれません。 どこのお店だったか忘れましたが、この弁当、 プラスチックの容器に収まっていても、その表面にはしっかりと「正解」の油が浮いています。妥協のないというか、その場で作るというより作り置きする料理なので、弁当に向いてますね。もう、見るからに美味しそうです。ハズレのない見た目をしています。
ホーラパー入ってますか?

「ゲーン・キヤオ・ワーン」がグリーンカレーではなく、ゲーン・キヤオ・ワーンとして完成するために、絶対に欠かせない材料があります。 それが「ホーラパー(タイバジル)」という名の葉です。
見た目も似てる「ガパオ(ホーリーバジル)」と混同されがちですが、まったく違う植物で、香りが全く違います。 ホーラパーが放つのは、アニスを思わせる独特の甘く濃厚な香り。 これがココナッツミルクの甘みと組み合わさって、初めて「緑で甘いスープ」は完成します。
日本のタイ料理店では、このホーラパーが入っていない、グリーンカレーがあまりに多く見受けられます。 原理主義から言わせれば、それは「ゲーン・キヤオ・ワーン」ではない「グリーンカレー」だ。「ゲーン・キヤオ・ワーン」とは名乗ってないので問題ないかもしれませんが、みなさんには違いとこだわりを分かっていただきたいです。 あの香りが鼻を抜けなければ、タイを感じることはできません。
ガパオよりも日本で見かけることが少ないので、私はその香りを求めて、自宅のベランダで自らホーラパーを育てるに至りました。 とてもじゃないけど、使いきれない…

ソーメンと食べる
タイの日常において、このゲーンは必ずしもジャスミンライスと一緒に食べるものではありません。

私がよく行く「メーサイストア」で教えてもらったのですが、「カノムジーン」と呼ばれる、素麺に似た発酵米麺。 これにゲーン・キヤオ・ワーンをたっぷりとをかけて、絡ませて食べます。カレーうどんは洋食のカレーと、和食のうどんを日本人が得意のアレンジで組み合わせたものですが、このカノムジーンと一緒に食べるのは、ごく普通に昔からタイでは食べられてる食べ方のようです。
タイ料理の世界は、このカノムジーンのように、麺一つとっても驚くほど多様で奥が深いものです。 パッタイだけではない、知られざる麺の物語については、また別の機会にお話ししましょう。

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